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2010年1月15日 (金)

小説「坂の上の雲」を読み直す・その13

小説「坂の上の雲」を読み直す・その13

反日プロパガンダと化したNHKスペシャルドラマ

NHKスペシャルドラマの第1部については、軍神・広瀬武夫とロシアでの生活、ロシア貴族の関する部分で最後になる。
NHK版では、広瀬武夫とのちに海軍大将にまでなった八代六郎とのロシアの首都ペテルブルグでの出来事。
この部分というのは、NHK版の作り話で原作「坂の上の雲」にはない。
但し書かれているところと言えば、第3巻の「風雲」の冒頭、広瀬が駐在武官の任務を解かれて日本に帰ってきた時、日露戦争の真っ直中の「旅順口」という項目である。
だから、映像で見る限り、単なるマンガでしかないというのはNHKの原作者があまりにも当時のロシアというものを知らないと言う事なのだろう。
事実、原作者の司馬遼太郎とて、ロシアの貴族世界とロシア軍そのものに対して無知を丸出しにしている。
但し、色々な文献に当たっているうちに多少概観が見えてきたようで、曰くありげな文章が散逸される。
それを第三巻から取りあえず抜き出してみると
先ず、秋山好古が騎兵少将になった後、ロシア陸軍の大演習に参観武官としてニコリスクへ出向いた時、浦塩港(ウラジオストック)で。
皇族待遇で儀仗兵に出迎えられて‥‥

ミルスキー大尉が、きれいなフランス語で好古に話しかけてきた。かれはこの日本の少将がフランス語に堪能だということを、あらかじめ知っていた。

‥‥中略‥‥

ロシアの将官はことごとくといっていいほどに貴族の門閥に属し、当然ながらフランスの宮廷的な優雅さを身につけている。

同じく貴族に関しては、
広瀬武夫が秋山真之の質問にこう答えている部分。‥第3巻「風雲」

『しかしふしぎなところも多いな』といった。」
「まず、士官階級は貴族が独占しているということである。広瀬は滞露中、列車のボーイ長から、貴下は日本の海軍士官だそうだがそれでは伯爵か侯爵かときかれたことがある。

‥‥中略‥‥

『日 本はいま国民的熱気のなかで海軍建設をやっているが、ロシアも海軍建設については日本以上の勢いでやっているくせに、庶民はその事実すら知らないし、関心 をもとうともしない。国家というのは貴族の所有だから、海軍建設についても庶民からみればその貴族たちが勝手にやっていることだとおもっている。その無関 心な庶民の階級から、戦時にあっては下士官と水兵が提供される。かれらにどれほどの戦意が期待できるか、疑問だ』」

そして、少し後ろの方の「旅順口」、マカロフの解説

ステバン・オーシポウィッチ・マカロフ中将は、ロシア海軍の至宝といっていい。
かれは正真正銘のスラブ人で、しかもロシア海軍にとって例外的な存在であることは、貴族の出身でなく、平民の出身であることだった。帆船時代の水夫からたたきあけ、しかもたたきあげにみられるような単純な実務家という人でなく、‥‥中略‥‥平民出身ということなどもあって、下士官や水兵のかれに対する人気は圧倒的であった。

先ず、司馬遼太郎氏のトンでも記述から多少見てみよう。
それは、マカロフの部分。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、ステパン・オーシポヴィチ・マカロフは、「ロシア帝国の領土だったウクライナのヘルソン県ニコラーエフ(現在のムィコラーイウ)で海軍准士官の家庭に生まれる。」とある。
そして、「父の転属に伴いニコラエフスク・ナ・アムーレに移り、1858年、ニコラエフスク航海士学校に入学する。1865年、航海士学校を首席で卒業したが、父の希望により航海士ではなく、海軍士官候補生となる。

これだけ見ても、司馬氏が言う「水夫からたたきあけ」というのは嘘である。
しかも、父親は海軍士官であるから貴族である。
だから「貴族の出身でなく、平民の出身であることだった。」と言う事も嘘。
当然、「かれは正真正銘のスラブ人で」もない。

ロシアにおいて、海軍、陸軍士官というのは「貴族」であると規定されている。
逆に言えば、貴族でなければ「士官」になれない。
「ロシア貴族」(ユーリー・ミハィロヴッチ・ロートマン著・筑摩書房1995年) ロシア貴族
軍人のうち「将校は皆貴族である」と規定されていれば、司馬が広瀬に言わせたことは変な話しである。
そして、NHK版でのアリアズナ・コヴァレスカヤ(17歳)という伯爵令嬢との恋愛。
NHK版では、一見プラトニックラブの様な雰囲気だが、かなり卑猥な部分である。
そして、常識から見ておかしいと感じない人は、歴史を知らないか平和呆けをしている。

同じ様な立場にいたのがポーランド名門貴族の夫人で、絶世の美女だったマリア・ヴァレフスカ(19歳)伯爵夫人ではないかと考えているのである。
この人物は、歴史上ある程度有名人なので事は大きすぎるが。

次回、その種明かしをして行こう。

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