坂の上の雲・司馬史観を再考する「帝国陸軍の栄光と転落」別宮暖朗・著
坂の上の雲・司馬史観を再考する「帝国陸軍の栄光と転落」別宮暖朗・著
その1
NHK版「坂の上の雲」が年末に放映されることによって、日清・日露戦争以降の日本の戦争史について種々の本を再度読んでみることにした。
今回の別宮暖朗氏の著書は、日清戦争から昭和期の支那事変あたりまでを網羅している。普通、別宮暖朗氏と言えば、司馬史観「坂の上の雲」の歴史批判で有名で多くの著書がある。そう言う著書を一々読まなくても、この「帝国陸軍の栄光と転落」の日露戦争奉天会戦を読むとある程度氷解するところがある。
司馬史観で一番問題なのは、戦争史観が二次大戦以降と言うよりベトナム戦争などの近代戦争の史観によって述べられていることである。
そして、全8巻もあることから日露戦争のロシア軍の実態が小説の中に突然出てくると言う奇異な部分もある。
ロシアの貴族制度とその社会、そしてそこから派生する軍人貴族。
正確には将校は全て貴族というロシア社会は、日露戦争を記する著書にはほとんど取りあげられていない。
この点フランスの近世貴族社会を研究していた関係上その延長線上でその実態を知ることになったと言うものの、不思議なことに日本ではそう言う貴族制度というものには無理解である。
従い、「坂の上の雲」、「帝国陸軍の栄光と転落」なども当然貴族制度というものは取りあげていない。
日露戦争を語る上で、ロシアの貴族制度というものと(日露戦争などの)辺境に投入される軍隊が、新たな領土になった(ポーランドなどの)新植民地軍であるという点も余り指摘されていない。
「坂の上の雲」では後半、このロシアの植民地軍のことは多少出で来ると言うものの戦役では皆無になっている。
そして、そのロシア貴族というものを誤解しいるためにロシア軍人に日本の軍人と同じような投影をして実に妙なロシア軍人が出来上がる。
その結果として、なぜその様な行動をするのか言い換えれば軍事行動の根拠が曖昧になる。
「坂の上の雲」の司馬史観で糾弾されているのが旅順攻撃を行った第3軍乃木希典大将である。
これは、本の「あとがき」でもかなり言及されているもので、この史観というものが戦後史観というものである。
日露戦争というのは、第一次大戦前において近代戦の典型的なモデルとなっている。
そのために多くの観戦武官が日露戦争を参考にして、後の独ソ戦「タンネンベルクの殲滅戦」に繋ぎ、英国は秋山好古の騎兵隊を真似して騎兵に「機関銃部隊」を付属させた。
その英国の騎兵隊が第一次大戦では、秋山好古が馬を下りて歩兵として戦ったと同じ行動をした。特に黒溝台の激戦では一部塹壕戦になったのと同じ戦い方をした。
「帝国陸軍の栄光と転落」の別宮暖朗氏はボトルアクションの薬莢式ライフル銃が普及したために騎兵が役に立たなくなったと述べている。
確かにそうではあるが、これは重機関銃が射撃の主流となった第一次大戦の話である。
以下
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旅順攻防戦の真実―乃木司令部は無能ではなかった (PHP文庫)
帝国陸軍の栄光と転落 (文春新書)
日露戦争陸戦の研究 (ちくま文庫)
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