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2011年1月13日 (木)

図説・イングランド海軍の歴史を読む その2

図説・イングランド海軍の歴史を読む その2

この本は「図説」もとある様に、イングランド海軍のナポレオン戦争までの海戦史である。そして、その海戦史を見る限りに於いて海戦での軍艦は単縦陣同士で戦闘に入る。
時は帆船の時代だから風上側、風下側という有利不利というものがあるものの、海戦に入る場合の基本と言うのは「単縦陣」である。
そう言うことから考えて、日露戦争での日本海海戦でバルチック艦隊が戦闘地域を前にして二列縦陣と言うことは考えられない。ロジェストウエンスキー提督が弁明するのもさもありなんというものだろう。
ところで、その1で帆船小説‥‥海洋冒険小説を紹介した。
その中で、どう考えても「嘘だろう」という「時代考証」無視の設定が見られると言うのはどういうものなのか不思議でならない。
たとえば、アダム・ハーディ「海の風雲児FOX」では、主人公のフォックスは水兵から第一レフテナント(副長)になる。二次大戦ものだがフィリップ・マカッチャン「キャメロンの海戦」でも水兵から成り上がって、最後には最新鋭の戦艦の艦長(大佐)になる。
「坂の上の雲」でマカロフ中将が水兵からのたたき上げと書く。
この様なことは、現代でもあり得ないことだから18~19世紀当時の階級はっきりしていた時代では青天の霹靂である。
簡単に言えば、教育レベル違いとでも言うか、オフィサー(ミジップマン・レフテナント)と水兵の大きな違いというのは、水兵がほとんど文盲だったと言うことである。
小学校低学年程度教育というのは、シャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」を見ても分かるように家庭教師によって為される。
これは元々ヨーロッパ貴族の伝統であって、この家庭教師による基礎教育の上に士官学校や神学校、英国ではパブリックスクールがあると言う次第なのである。
だから、第二次大戦においても英軍などでは文盲も不思議ではなかったはずなのである。そう言う理由で、ある程度事業に成功して金銭的な余裕があるときに、その基礎教育をして士官学校へ入ったと言うケースは小説にはある。
たとえば、セシル・スコット・フォレスターの「ホーンブロワー・シリーズ」であり、「鬼将軍」もそうである。
アレグサンダー・ケント「ボライソー」シリーズ のボライソーは、海軍一族で代々キャプテンであって、サーの称号をもつ先祖もいる。ダドリー・ポープ「ラミジ艦長物語」のラミジ艦長は伯爵と言う次第。
そう言う日本では考えられない教育格差というものがヨーロッパには、つい最近まで存在していたと言うことである。
従って、基礎教育を経た者は水兵で海軍に入隊すると言う事はなく、特に海軍にコネでもあれば支度金を払ってミジップマン(士官候補生)になれた。
尚、本書では「海軍ぐるみの勅令違反」として、年齢詐称や名簿上だけの乗員など種々のインチキがあったことが書かれている。
あのネルソン提督は、極めて若くアドミラルになるが、その秘密が如何に早く「艦長名簿」の上位に載るかによる。
従って、ネルソン提督は、「13歳ルール(1731年制定)」を違反して、12歳で軍艦に乗った。レフテナントへの昇任試験は21歳のところネルソンは19歳で昇任。
提督サー・ジョージ・エリオットは16歳で昇任したという。
「父親が息子の名前を乗員名簿に登録して、実際には乗せないやり方」と言う紹介があり「ダンドナルド伯爵トマス・コクレーンという猛将」の場合、「本人が18歳で海軍に入ったとき、‥‥艦長に昇任していた」と言うのがある。
その様な例を使って、小説になっているのがアダム・ハーディ「海の風雲児FOX」である。
貴族で親の七光りで軍艦の艦長になった人物は、(まともに操艦も出来ないから)自身の安全と保身の為に優秀なフリゲート艦副長として、主人公フォックスを選ぶというものである。
小説ではわざわざ貧相な小男、外見ではとても優秀とは思えない人物として描かれている。
そして、数々の拿捕船を獲得したり、戦績を上げるという物語である。
小説としては、全巻出版されなかったからどういう事になるのかは分からない。
話の筋としては、艦長が実績を上げてフリゲート艦から戦列艦へ。
そして旗艦艦長に出世して、戦績を上げれば戦列艦の旗艦副長は功績(艦長としての名誉)として艦長へ昇進させるという話がある。
小説では、筋として「ボライソー」シリーズでは、レフテナント時代の同僚を副長として戦績を上げ、艦長に昇進させている。

いずれにせよ「図説・イングランド海軍の歴史」では、詳細なイングランド海軍の内部の話しはなく、基本的に海戦史なので部分拍子抜けする。
そして、その海戦史が前述の様にナポレオン戦争までなのに、階級章が19世紀末から20世紀なのはどういう事なのかと言うものである。

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